小児の運動療法について

小児のリハビリテーション中心の仕事から離れて2年ほど経ったときのことです。ずっと私の務め先に小児の運動療法を受けに通っていた母親とその知り合いの方から話があり、小児の運動療法を京都ルネス病院で始めるようになりました。

総合的な療育ではないために、運動療法と限定して話を進めていきます。対象疾患は脳性麻痺・ダウン症・運動発達遅滞・異常歩行などです。訓練開始当初はボイターを中心に行っていましたが、それまでに抱いていた疑問を少しずつ解消していく過程で考案した全く新しい訓練方法を行っています。

脳性麻痺児のリハビリテーション

当院小児リハビリテーション科では従来の脳性麻痺児に対する方法による典型的な病的運動パターンを示す訓練効果というものに疑問を持ち、運動発達・運動障害を筋の機能から詳細に分析することにより、現在の個々の筋に対してアプローチを行うという方法を確立しました。この過程で解ったことは、分析に必要とされる筋の機能は従来のものとは異なり、さらに細分化されなければならないという事でした。その結果、一般的な小児リハビリテーションで行われる運動発達・運動障害の分析とは、異なる内容・評価となっています。

では筋の機能に基づいた関節運動の分析というのが、今までとはどのようなところが違うのか説明していきます。少し難しい話になりますが、実際に訓練を受けていて、子供の手足や体が硬くなってきているけれどこのままで大丈夫なのだろうか?と疑問を持ち始めている方には是非読んでもらいたい部分です。基本的に関節運動を構築する筋の基本的原則は上肢も下肢も同じなので、変化が分かりやすい上肢で説明します。

①07年5月18日                ②07年5月21日

③07年7月14日                                

 

 

 

 

 

 

④07年7月14日訓練後              現在利き手は左手

写真① 訓練開始時:修正月齢4か月から訓練開始、手を口に持っていく動作ができない
写真② 胸の前で手と手を合わせることができるようになった
写真③ 訓練前 右上肢リーチで玩具まで届く、そして左上肢を添えて口に持っていく
写真④ 訓練後 両上肢を対象的にリーチ しかし写真③のように肘関節は伸びていない

上肢がおもちゃに届いている③の方が機能的に良いように見えますが、この運動に関与する筋を分析すると、④のリーチが抑制されている方が機能的に良いことが分かります。

関節運動の変化を分析すると、写真③のように運動が変化すれば機能的に良くなっていると判断されます。また運動の変化が見られた上肢の方が機能的に良いと判断されるのが一般的です。しかし上肢の運動を、筋の機能を分析・評価すると、次のような選択肢があることが分かります。

A.運動は機能的に変化した                                B.運動は変化したが機能障害は強くなった                           C.左右を比べると、運動の変化が見られた方が機能的に良い                 D.左右を比べると、運動の変化が見られた方が機能障害は強い

この写真のケースのように、最初によく使うようになった上肢の方が機能障害が強いというのは、アプローチを行っていて他にも観察されることです。また運動が変化する過程で、良く使う方の手が何度も変化するということもあります。

運動発達を間接運動の変化をもとに分析する場合、Dに関しては考慮に入っていないはずです。しかし運動変化に対する希望的観測を除いて客観的に見れば、(A-C)、(B-C)、(B-D)の組み合わせも同じ確率で現れるはずです。運動発達の遅れとは、これらの組み合わせが運動として現れていないという事であり、機能的な運動も運動障害を表すことができない状態という事なのです。

ではこの状態を機能的改善である(A-C)に近い方向に持っていきたい場合、どのようにすればよいのでしょうか?理論的には、写真①のだんかいで詳細な分析が行われ、アプローチを開始することが求められられるはずです。そしてこの語の運動の変化において重要なことは、写真③のように運動ができるかどうかという事ではなく、どのように変化してきたのかということです。つまり機能的なプロセスが重要になります。写真①→②→④というように運動が変化する場合に、上肢の運動の変化に関与する筋とその機能が詳細に分かっていて、初めてそのプロセスを評価することができるのです。

次にこの上肢の運動の変化を下肢に当てはめて考えてみます。同様に考えればずり這い・四つ這い・つかまり立ちや歩行器歩行ができるようになっても、必ずしも機能的に良くなっているとは言えない場合もあるということです。運動が変化しても機能障害が強くなってきているということがあり得るのです。さらにここで問題となるのは、このためにどのような訓練方法が行われてきたのかということです。運動発達の知識を中心に脳性麻痺児の運動障害の分析・アプローチを行う方法では、運動発達の知識のみに沿って立位や歩行訓練を中心に行うような場合、間接運動に関する筋の問題が積み重なってしまう危険性があるのです。早期から立位訓練や歩行訓練が中心に行われがケースほど、典型的な病的運動パターンとなることが多いはずです。これを予防するためには、運動障害を複数の観点からとらえた方法を用いることが安全なのではないでしょうか。

他の分野に関する知識の誤りをできるだけ少なくするためには、少なくとも次の3つの段階を分析、評価してアプローチを行う事が必須であると考えています。

 ・脳性麻痺児の特徴的な運動障害の分析
 ・運動発達の知識に基づく分析
 ・個々の関節における運動障害の分析:構築する筋の機能障害を詳細に分析
  運動発達が停滞するケースほどこの段階の分析・アプローチの比率が高まる

このように立位・歩行練習を中心に行わない場合、消極的な訓練方法として捉えられてしまう傾向があります。しかし歩行可能児に対しては、下肢の支持機能に対して下の写真のようなアプローチも行っています。この方法を行うには、早期から足関節に関与する筋に対してアプローチを行い、機能障害を最小限に抑えることが重要となります。

染色体異常、発達遅滞のリハビリテーション

一般的に発達が遅れている場合に、座れないから座らせる、歩けないから立位・歩行練習だけをするというのは、成人にも当てはまるリハビリテーションの概論的な方法として説明されている内容です。しかし、染色体異常児において運動発達が遅れている場合には、各論としてそれぞれの特徴的な運動や関節・筋機能を分析した内容に対してアプローチを行うことが求められるのではないでしょうか?

当院では脳性麻痺児以外で発達が遅れているケースに対しても、筋・関節機能を詳細に分析・評価しアプローチを行っています。このアプローチを受けているケースでは、歩行に至るまでの間に股関節・膝関節・足関節の運動を、変化が現れるたびに説明することができます。このような時、母親が意外と細かいところにまで気が付いていたことに感心することがあります。この母親の前で、子供に立たせる訓練や歩行器歩行の連取だけを行っていれば、物足りなさを感じられてしますのも当然のことです。ほかで訓練開始してから、当院の訓練を受けらるようになった子の母親から度々聞かされる「歩く訓練しかしてもらえないと、子供のことをちゃんと見てくれていないのではないか心配になる」という不満も仕方のないことだと思います。

ダウン症を例にすると、一般的には禎緊張が発達遅滞・異常運動の原因とされています。しかし詳細に筋・関節機能を分析すると、特定の筋・腱の固定性低下・可動性低下、関節の固定性低下や可動域制限が異常運動(異常歩行・指先の使い方が下手など)の原因となっていることが分かります。上肢の使い方に関しても、遊びの中の繰り返し練習だけで改善することが困難なものが多く、それは下肢の問題についても同様で、立位・歩行訓練だけで解決するものではありません。仮に低緊張が問題の中心であったとしても、靴型装具の使用や歩行訓練だけで歩行の不安定性を解決することは困難なのです。

当院の方法は従来のリハビリテーションとは異なるもので、リハビリテーションの分野に参考になる本はほとんど見当たりません。そのために理論を組み立てるのに参考にした本は以下のものです。興味を持たれた方は一度目を通してみてください。

参考図書

・動きが生命をつくる 池田高志 青士社
・生命とは何か 金子邦彦 東京大学出版
・デクスティリティ ニコライA.ベルンシュタイン 金子書房
・コミュニケーションするロボットは創れるか 谷口忠大 NTT出版
・構造機能生物学p47~p109 岩波書店
・シリーズ脳科学 東京大学出版会認識と行動の脳科学、脳の発生と発達、分子・細胞
・シナプスから見る脳
・ミラーニューロン ジャコモ・リゾラッティ 紀伊国屋書・認知哲学 山口裕之 新曜社